うつつな絶景

次々ひらく打ち上げ花火、
あるいは万華鏡の中。

わたしはかなりの近視で、軽度ではあるが乱視でもある。
メガネかコンタクトレンズがないと何も見えない。
全てにモザイクがかかってしまう。
裸眼で人の顔を確認しようと近づけば、その前にオデコか鼻先がぶつかるだろう。

そんな貧弱なわたしの眼だが、その力が存分に発揮される場面がある。

雨の降る夜、走る車の助手席でメガネをはずす。

車のテールランプ、ヘッドライト、お店のネオン、街灯、雨粒の反射、濡れた道路の映りこみ。
そこにある光という光のすべて。

暗闇の中、それら光が一様に丸く膨らむ。
輪郭をにじませながら大小幾重にも重なって、色とりどりに煌めきながら視界の全てを埋め尽くす。
白、黄、橙、赤、青、緑…。
浮かんでは消え、消えては浮ぶ。

裸眼で見る現実の世界。
見えないからこそ見える世界。
視力1.5にはない世界。

まるでこの世ではないかのように美しいけれど、だからといって運転席でやってはいけない。
まだまだこの世にいたいので。