すべてがわかるわけではないの

キーワードをパパっと入力さえすれば目的の対象を簡単に検索し、知ることができる。
インターネットって便利、便利な世の中になったものだなぁ。

18才、女子高生。
制服に合わせる靴下はルーズソックスがまだまだ主流で、でも、紺のハイソ派もちらほら現れ始めた時代。

夏休みを利用して、3泊4日の日程でサッカー観戦旅行に出かけた私と友人たちは、1日目を宿探しに費やし、2日目はせっかくだからと練習場に足を運ぶことにした。

目的はサッカーであって観光ではなかったから、他にすることもなくて、朝早くにタクシーをつかまえ練習場へと向かう。

今みたいに猛暑猛暑と騒がれる頃ではなかったから、よい天気の中、まだ誰もいない練習場で友人たちとのんびり過ごすことに。

ふと足元をみると、地面にあいた巣穴を出たり入ったり小さなアリたちがせわしなく働き回っている。

アリなんて珍しくもなんともないんだけど、何の気なしにしゃがみこんで眺めていると、その中の1匹が、ヘン。
その他大勢のアリたちとおんなじようにワシャワシャしているんだけど、明らかに、ヘン。

他のアリたちよりもほんの少しだけ大きくて、やたら艶っと丸っと黒っとしていて、触角が常に高速で振動していて、そして、左右の前足1本ずつがなぜか「ハサミ」になっている。
ザリガニのハサミみたいなポッテリしたハサミ。

…ハサミ??

地元では見たことがなかったから、あぁ、土地が違うと珍しい生き物に出会うこともあるんだなあ、と持参していたお手製旅行しおりの裏表紙にそのアリの姿をスケッチしてみた。
カメラもあったけれど、デジタルではなかったから限りあるフイルムを消費しようとは思わなかったんだと思う。

それからサッカー三昧な旅行を満喫し、地元に戻ってからそのアリについて調べてみた。
図書館で。図鑑で。

でもどれだけ調べてもそんなアリは見当たらなくて、よっぽどマニアックな図鑑じゃないと載ってないのかもな、こんな小さな図書館では限界かも、と思ってあっさり諦めた。

そして今。
たくさんの図鑑を入手せずとも楽に調べものができる時代となり、私はせっせと入力をする。
あらゆるキーワードを、思い付く限りの組み合わせで。

enterボタンをクリックし、ずらりと表示されるおびただしい数の昆虫画像。
虫、苦手な人はヒイってなるだろう。

1つ1つ丁寧に見てみるけれど、あのアリはどこにもいない。
画像検索だけではなく、Q&A的なものも調べてみるけれど、どこにもいない。

うぅん。

今まで、玉虫色のトカゲとか、白いレース状のひだをまとった虫とか、リビングのモンステラの鉢に突然生えたレモン色のキノコとか、何でも検索して答えを得ることができたというのに。

どれもこれも、私が見たあの日のアリではない。
ひょっとしたらそもそもアリではなかったのかもと思って検索範囲を広げてみるもヒットせず。
いや、アリだと思うけどね。

この初めての友人との旅行で最も色濃く印象に残っているのはアリとの出会いで、肝心のサッカーについてはあんまり覚えていない程だというのに、結局アリの正体は暴けずか。

残念。

この先、またうんと時間が経って、今よりももっとウルトラスーパー便利な方法で物事を調べることができる時代へと移ったならば、その時にはまた調べてみようかな。