私は今、一番遠いところ

大学に通っていた頃、全くの専門外だったけれど、単位の都合で哲学の講義を選択していた。

先生はタートルネックのセーターを着て、髪をキチンと整えた人で、私はそのいかにも哲学を教えそうな風貌が割と気に入っていたし、講義の内容も悪くなかったので、さぼったりせずに毎度しっかり参加していた。

「眠くなったら眠って、おなかが空いたらすぐにご飯を食べて、そういうのを自由だと思っているかもしれないけど、それは自由ではないから」

講義自体は生命倫理中心の内容だったから、雑談だったかもしれないし、わき道に逸れたのかもしれないが、ある日先生はそんな話をした。

欲求に抗えずに、それに素直に従っているだけなのだからそれは自由ではないのだという。
いつ眠りいつ食べるのかを、自らの欲求を無視して自在に決定できればそれは自由なのだという。

なるほどー、と思った。
オレは自由だ!何にも縛られないぜ!と嘯いて本能の赴くままに生きている人は、実は自由とは一番遠いところにいるのだ。
本能にまんまと踊らされ、操られているだけで。

己の欲求を滅却して本能と戦う、それが自由を手に入れる手段ということか。
でもそれを突き詰めては生き物は生きて行けないわけで…。
むむむ。

哲学的自由って難しいんだなー、って思ったっけ。